偏愛・サイゼリヤ

マッシュルームスープ

スープ、といえば太宰治の『斜陽』という小説は「朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、「あ」と幽かな叫び声をお挙げになった。」という一文からはじまります。淡いミルクティーのような色をしたスープに銀色のスプーンを浸すとマッシュルームに香りがある、という事実と同時に、"お母さま"が「スプウンの尖端から、スウプをお唇のあいだに流し込む」情景を思いだします。

 

彩りイタリアンサラダ

人種の坩堝(=melting pot)、と表現されるのはアメリカ合衆国ですが、いつからか人種のサラダボウル、と言い換えられるようになりました。異なる人種が溶けあっているわけでなく、共存しているから。ということだそうです。これはむしろ、サラダの特色・美点をみごとに言い表しているような気がします。つまり"料理のアメリカ合衆国"がサラダだ、と言っても良く、彩りイタリアンサラダこそまさに"アメリカ合衆国"だ、と思うのです。

 

柔らかチキンのチーズ焼き

服を買いに行く為の服がない、というジョークは有名ですが、体力をつける為の体力がない、というのはけっこう深刻な問題だ、とジムのサウナで倒れかけて駆けつけた受付のお姉さまにポカリスウェットを飲ませてもらった(もちろん全裸で)わたしは思うのです。そんなわけで昨今のサウナブームには乗れるわけなく、整うってなあに。という状況ですが、鉄板でじゅうじゅう熱された柔らかチキンのチーズ焼きで火傷した舌を、ドリンクバーで氷をたっぷりいれたグラスに注いでおいた紅茶花伝(!)のアイスティーで急冷すると、これが……。と思い至るわけです。

 

バッファローモッツァレラのピザ(Wチーズ)

ニンテンドーDSのソフト『おいでよどうぶつの森』の舞台となる村には博物館があって、地下には「ハトの巣」という名前の喫茶店が併設されています。足繁く通って珈琲を飲むうちに寡黙なマスター(鳩)はいつしかサービスをしてくれるようになるのです。

ピジョンミルクお入れになります?」

この興奮をいまでも覚えている位ですが、ある日、動物図鑑を読んでいると更なる驚きが訪れました。図鑑によれば、鳩はほんとうに「ピジョンミルク」という分泌物により子育てする、というのです。単なる言葉遊びではなかった。作り手の物凄い量の知識や芸の細かさによってこの何気ないゲームが作られているのは恐ろしいような気さえしました。

さて、わたしが言いたいのは、鳩でさえミルクで育つということです。哺乳類であるわたしたちがミルクを、そしてチーズを。さらにはピザを好む、というのは当然のことかもしれません。

 

おわりに

美味しい、の手前に気持ちいい、がやってくる料理を食すという行為は幼い頃に、或いは遥か進化の前段階に退行する罪悪感、を伴った幸福をもたらすのでしょう。サイゼリヤは恍惚という言葉が不思議似合う。そんなことを思うのでした。